平久保自治協議会は、何のためにあるのか

2026年5月6日(水)、平久保公民館で今年度初めての定例会を開きました。
これまで協議会は、理事と各公民館長、事務局を中心とした会議が中心でした。けれど「協議会がどんな組織で、何をしているのか分からない」という声を地域の中で耳にすることが増えてきたので、今年度から取り組み方を変えました。半島の5つの公民館を持ち回りで、月に一度、地域の誰でも参加できる定例会を開く。形式ばった議事ではなく、雑談のなかで地域のこれからを話していく場にしたい。そんな思いで始めた試みです。
この日が、その第一回でした。
その日、出てきた問い
議題のひとつは、平久保小学校跡地の管理住宅活用についてでした。地域の方々がどう感じているか、率直な意見を伺いたかった。
そのなかで、「そもそもこの件は協議会が扱う話なのか」という疑問の声が上がりました。協議会はもっと地域の困りごとを吸い上げて、行政に届けるべきではないか。跡地の活用にまで踏み込むのはやり過ぎではないか、と。
この件はこれまでに公民館で複数回ご説明し、理事会で一度否決された後に議論を重ねて再度可決され、各公民館長の承認を得て進めている案件です。なのでその日もあらためて経緯をお話ししました。けれど、議論を聞きながら私はもう一段深い問題に気づきました。
それは、協議会という組織の役割そのものについての受け止め方が、人によって大きく違うということです。
協議会と、公民館・五校連の役割は違う
戦後の日本では、地域組織といえば「住民の声をまとめて行政に届ける(=陳情する)」モデルが長く中心でした。各公民館や、石垣島北部の五校連(小中学校区連合会)が担ってきたのは、まさにその役割です。地域住民の困りごと・要望を集約し、行政への陳情書として取りまとめてきました。これはとても大事な機能で、これからも変わらず続いていきます。
けれど平久保自治協議会は、それとは別の役割を担うために立ち上がりました。陳情モデルの延長や代替ではなく、もう一つの別の機能として地域に置きたかった組織です。
協議会は、行政への代弁機関ではありません。地域の住民が、自分たちの未来を自分たちの手で形にしていくための組織です。困りごとを集めて誰かに渡すのではなく、地域の課題を自分たちで考え、自分たちで動かす。動いてみて、それでも自分たちだけでは解決できない部分を、行政や外部と一緒に乗り越えていく。そういう順番でものごとを進めていく場として、協議会は設計されています。
公民館・五校連と協議会は、競合する組織ではありません。役割が違うだけです。下の表に、その違いを整理しました。
| 観点 | 公民館・五校連 | 平久保自治協議会 |
|---|---|---|
| 動きの起点 | 困りごと・要望 | やりたいこと・ビジョン |
| 主な活動 | 要望の集約と陳情 | 地域プロジェクトの企画・実行 / 先行事例からの学び |
| 行政との関係 | 要望を届けて対応を求める | まず自ら動き、必要な部分で協働する |
| 担当範囲 | 各集落・各地区 | 平久保半島全体(5公民館の横断) |
どちらも地域に必要な機能で、両輪として動いています。
なぜ「自分たちで動く」なのか
私がこの順番にこだわるのには、自分自身の経験があります。
私は星空ツアーをゼロから立ち上げてきました。最初は東京の会社と合同で運営していましたが、その会社にとって平久保は数あるエリアのひとつで、地域に何を残すかという視点はほとんどありませんでした。地域で働いてくれる方に、市内まで通わなくてもいい水準の賃金を払おうとしたとき、「他とのバランスが崩れるからやめてほしい」と止められたこともあります。私はむしろ、地域で安心して働けるだけの仕事のモデルを作りたかったのですが、その思いと真逆のことを言われたのが大きな転機でした。
OTA(オンライン旅行サイト)からの販売も同じでした。大きなプラットフォームは便利な反面、地域の特色を伝えるには構造的に向いていません。だから途中から、自社で直接販売できる仕組みづくりに力を入れてきました。立ち上げ当初は予約の大半が大手経由でしたが、今では自社の力で多くを売れるようになっています。
この経験から学んだのは、地域が自分たちの考えと自分たちの手で動けば、大企業の資金力や大手のチャネルに頼らなくても、ちゃんと立ち上げて運営していけるということです。大企業はもちろん自社の利益を優先します。それが企業として正しいあり方だからこそ、地域が「大手に来てもらえば何とかなる」と頼り切ってしまうのは、本質的に難しい。頼るのではなく、自分たちで作っていく。
協議会も同じだと思っています。
行政は、お願いされるだけでは動きづらい組織です。動くだけの根拠と、地域側の本気度が見えて初めて、予算や制度を動かす方向に舵を切れる。逆に言えば、地域が自ら動いている姿を見せることが、結果として行政や国を動かす一番強い力になります。
私は星空ツアーで補助金を受けたことはありません。補助金そのものを否定したいわけではなく、「自分たちで動いた末に、必要があれば使うもの」であって、「最初から当てにするもの」ではないと考えているからです。「補助金があるから事業を考える」のではなく、「やりたいことがあって、足りない部分に補助金が回る」。本来はこの順番のはずなのに、現実には逆になりがちです。協議会では、この順番を立て直していきたいと思っています。
平久保小学校跡地が問うていること
平久保小学校跡地の管理住宅は、まさにその試金石です。
行政に「住宅を建ててください」と陳情するのではなく、地域として跡地をどう活かせば次の世代につながるかを話し合い、必要なら自分たちで仕組みを作っていく。理事会が一度否決し、議論を重ねて再可決したという経緯そのものが、この案件が単なる思いつきではなく、地域として真剣に考えてきた証だと思っています。
うまく進むかどうかは、これからにかかっています。けれど、ここでひるんで「やっぱり行政にお願いしましょう」に戻ってしまうと、協議会という組織を立ち上げた意味が薄れてしまいます。
「自然保護=開発禁止」ではありません
もうひとつ、協議会についてよく聞かれるご心配があります。
「協議会は自然保護に偏っているのではないか」「協議会が動くと、新しい開発ができなくなるのではないか」という声です。地域には開発に意欲的な方もたくさんいらっしゃるので、協議会の存在がその動きを妨げてしまうのではないか、と心配される方がいます。これも、はっきりお伝えしておきたいことです。
協議会は自然保護団体ではありません。地域の未来を住民自身で決める組織です。判断のなかには自然をどう守るかという議題も入りますが、同時に、地域の暮らしや産業をどう育てていくか、新しい取り組みをどう実現していくかも当然含まれます。守ることと、作ること。両方が地域の未来づくりの両輪です。
自然や景観を守ることが、土地の価値を上げる
私自身は、地域の自然や景観を地域として守っていくことは、結果として土地の価値を上げると考えています。
身近で分かりやすい例が、同じ八重山にある竹富島です。竹富島は1986年、島民自身の手で「竹富島憲章」を制定しました。「売らない・汚さない・乱さない・壊さない・生かす」の5原則です。赤瓦の屋根、サンゴ石垣、白砂の道——島の景観を、住民主導で守り続けてきました。
その結果、何が起きたか。竹富島は今や八重山を代表する観光地のひとつになり、土地にも、宿にも、体験にも、高い価値がついています。住民が「守る」と決めたことで、結果として地域全体のブランドが上がり、暮らしと経済の両方を底上げしているのです。「守ること=発展を止めること」ではなく、「守ることが、発展の土台になる」というモデルです。
同じ流れは国内外で起きています。ニセコや軽井沢、湯布院など、観光地として長く価値を保ってきた地域に共通するのは、地域として景観や環境を守る枠組みを持っていること。だからこそ、不動産価値も観光価値も長期にわたって高い水準で保たれています。逆に、地域としての枠組みを持たないまま開発が先行した場所では、本来の魅力が損なわれ、結果的に土地の価値そのものが下がっていく傾向があります。
平久保にしかないもの——世界的に稀な「夜の暗さ」
では、平久保には何があるのか。
私たちは普段あまり意識していないかもしれませんが、平久保半島には世界的に稀になりつつある「夜の暗さ」が残っています。地球上で天の川がはっきり見える地域は、年々減り続けています。世界の人口の8割以上は、もう本物の星空を見ることのできない場所に住んでいるとも言われます。平久保半島は、その世界的に失われつつある資源を、今もなお持ち続けている数少ない場所のひとつです。
しかも、夜の暗さは一度失えば戻りません。街灯一本、看板一つで、数キロ範囲の星空が変わってしまいます。竹富島の景観が住民の意志で守られてきたように、平久保の夜空も、地域の意志なしには守れない資産です。
そしてこの暗さは、すでに経済価値を持ち始めています。世界では今、星空観光(アストロツーリズム)が成長分野になっており、夜空のきれいな地域はそれ自体が観光資産です。私自身、平久保で星空のツアーを長年やってきて、お客さまが本物の暗さに息をのむ場面を何度も目にしてきました。これは平久保固有の資産であり、他のどの地域も真似ができません。
海や景観は、近隣の他地域にも似たものがあります。けれど、世界レベルで稀な夜空は、平久保が独自にトップを取れる唯一の差別化資源です。「自然や景観を地域として守る」という考え方は、平久保にとっては抽象論や理想論ではなく、本当に具体的な経済戦略でもある——私はそう考えています。
ここで一つ、正直に書いておきたいことがあります。私自身、平久保で星空ツアーを長年やってきました。だから「自分の事業のために言っているのではないか」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
けれど、私が夜の暗さの価値を強く言えるのは、ビジネスをやっているからではなく、ビジネスをやっているからこそ、この資源がどれほど稀で、どれほど壊れやすいかを目の前で見続けてきたからです。世界中から来るお客さまが本物の暗さに涙する瞬間を、何百回と立ち会ってきた人間です。観念ではなく、目の前の事実として価値を知っています。
そしてもし本当に自分のビジネスのことだけを考えるなら、競合を増やすこんな話はしないほうが楽です。それでも話し続けるのは、私の事業も含めたこの地域の暮らし全体が、夜空が守られていることの上にしか成り立たないからだと思っているからです。事業の利益と地域の利益が、ここでは完全に重なっている——そのことを、お伝えしておきたいのです。
平久保半島の星空、海、景観は、他の地域では失われつつある稀少な資源です。これを地域として残しながら、その価値の上に立つ形で新しい取り組みを進めていく。そのほうが、何の枠組みもなく開発を進めるよりも、長期的には地域の経済にも、ここに住む人たちの暮らしにもプラスになると思っています。
協議会は、地域の知見を広げる場でもありたい
ただ、こうした考え方は、平久保ではまだ十分には共有されていないかもしれません。「自然を守ること」と「地域の発展」は、別のもの——むしろ対立するもの——として捉えられがちです。
だからこそ、協議会は地域の知見を広げる場でもありたいと考えています。竹富島のような先行事例から学ぶ機会を作る。視察や勉強会、情報共有を通じて、「守ることが価値を生む」という仕組みを地域のみんなで一緒に学んでいく。地域の選択肢を増やしていく。これも、協議会の大事な役割だと思っています。
協議会は、開発を止める組織ではありません。地域として何を残し、何を新しく作っていくかを、住民自身で考え、決めていく組織です。そのために必要な知見を、みんなで広げていく。守ることも、作ることも、その判断は住民の手の中にあります。
これからの平久保へ
今回の定例会で出てきた問いは、決してネガティブなものではありませんでした。むしろ、協議会のことを真剣に考えてくださっているからこその問いだったと受け止めています。
だからこそ、これからは「協議会が何をする場なのか」を、言葉だけでなく動きで見せていくことが大事だと思っています。月に一度、5公民館を回る定例会は、そのための場です。雑談から始まって構いません。地域の誰かが「こんなことやってみたい」と口にしたら、それを協議会で形にしていく。そんな場にしていきたい。
平久保自治協議会は、地域の住民が主役の組織です。気になることがあれば、ぜひ次の定例会に足を運んでみてください。


